令和6年度4/1のゼミ(複素関数論)

1.概要&注意事項

今回やった内容としては項別積分&項別微分ローラン展開についてです。ただ、この kansuron.pdf (hit-u.ac.jp) PDFの内容をほぼ丸写しして少し補足したものなのでPDFを見た方がわかりやすいかもしれません。

2.項別積分&項別微分

まずは次の補題を見てください

補題1 (微積分と無限和の順序交換)


(1)CD内の任意の曲線とする。連続な関数列の有限和\displaystyle g_n(z)=f_0(z)+f_1(z)+\cdots+f_n(z)C上で、ある関数\displaystyle g(z)=\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z)に一様収束するとき、

\displaystyle\int_C\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z)dz=\sum\limits^\infty_{n=0}\int_Cf_n(z)dz

(2)正則な関数列の有限和\displaystyle g_n(z)=f_0(z)+f_1(z)+\cdots+f_n(z)D上で、ある関数\displaystyle g(z)=\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z)に広義一様収束するとき、

\displaystyle(\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z))'=\sum\limits^\infty_{n=0}f_n'(z)

この補題から、項別積分と項別微分の正当化ができます。

それでは証明をしていきます。

補題1 (微積分と無限和の順序交換)の証明(1)


g=\lim\limits_{n\to\infty}g_nとすると

左辺=\displaystyle\int_Cg(z)dz^*=\lim\limits_{n\to\infty}\int_Cg_n(z)dz\\\displaystyle=\lim\limits_{n\to\infty}\int_C\sum\limits^n_{k=0}f_k(z)dz=\lim\limits_{n\to\infty}\sum\limits^n_{k=0}\int_Cf_k(z)dz=右辺

^*=のところで次の命題を用いています。

命題2


連続な関数列g_n:D\to\mathbb{C}(n\ge0)が関数g:D\to\mathbb{C}D上一様収束するとき、D内の任意の曲線Cに対し、

\displaystyle\int_Cg_n(z)dz\to\int_Cg(z)dz(n\to\infty)

この命題の証明はここでは省くのですが、最初に紹介したPDF https://www1.econ.hit-u.ac.jp/kawahira/courses/kansuron.pdf の第14講にあるので見てみてください。

補題1 (微積分と無限和の順序交換)の証明(2)

(1)と同様にできます。ただこの(2)では命題1の代わりにワイエルシュトラスの定理を用いれば証明できます。

\displaystyle g'(z)=\lim\limits_{n\to\infty}g_n'(z)\\\displaystyle=\lim\limits_{n\to\infty}(\sum\limits^n_{k=0}f_k(z))'=\lim\limits_{n\to\infty}\sum\limits^n_{k=0}f_k'(z)

次はローラン展開を見ていきます。

3.べき級数

まずは次の補題を見てみましょう。あとで結構使います。

補題3 (絶対収束の条件,アーベルの補題)


べき級数F(z)=A_0+A_1z+\cdots+A_nz_0^n+\cdots があるz_0\in\mathbb{C}で収束するとき、|z|<|z_0|を満たす任意のzについてF(z)は収束する.とくに0<r<|z_0|を任意に固定するとき,部分和の列F(z_0)=A_0+A_1z+\cdots+A_nz_0^nE(r):=\{z\in\mathbb{C}\vert|z|\le r\}上で一様収束する.すなわち、D(0,r)上で広義一様 収束する.

それでは証明していきましょう。

補題3 (絶対収束の条件,アーベルの補題)の証明


r<|z_0|を満たす任意のrを固定しよう。いま、F(z_0)=A_0+A_1z+\cdots+A_nz_0^n+は収束するから、A_nz_0^\inftyが発散しないようにするためにはA_nz_0^n\to0(n\to\infty)でなくてはならない。(z^\inftyは[z<1]なら0、[z>1]なら\inftyになるため。)よって、あるM>0が存在し、すべてのn\le0|A_nz_0^n|\le Mが成り立つ。

さて|z|\le r<|z_0|を満たすzを取る時、|A_nz_0^n|=|A_nz_0^n|\cdot\left\vert\dfrac{z}{z_0}\right\vert^n\le M\cdot\left(\dfrac{r}{|z_0|}\right)^nであるから、

\displaystyle\lim\limits_{n\to\infty}(|A_0|+|A_1z_0|+\cdots+|A_0z_0^n|)\\\displaystyle\le\lim\limits_{n\to\infty}M\left\{1+\dfrac{r}{|z_0|}+\cdots+\left(\dfrac{r}{|z_0|}\right)^n\right\}\le M\dfrac{1}{1-r/|z_0|}

よってF(z)は絶対収束する。したがって、|z|\le rを満たすzについて[F(z)]は収束する。[r(<|z_0|)]は任意であったから、|z|<|z_0|のときF(z)は収束することが示された。

次にE(r)上での一様収束性を確認する。z\in E(r)に対し、

|F(z)-F_n(z)|=|A_{n+1}z^{n+1}+A_{n+2}z^{n;2}+\cdots|\\\displaystyle=\lim\limits_{N\to\infty}|A_{n+1}z^{n+1}+\cdots+A_{n+N}z^{n+N}|\\\displaystyle\le\lim\limits_{N\to\infty}M\left\{\left(\dfrac{r}{|z_0|}\right)^{n+1}+\cdots+\left(\dfrac{r}{|z_0|}\right)^{n+N}\right\}\\\displaystyle\le M\dfrac{(r/|z_0|)^{n+1}}{1-r/|z_0|}

最後の式はzに依存せず、かつn\to\inftyのとき任意に小さくできるから、E(r)上でFは一様収束する。

この補題から、べき級数はどこか(中心以外の)1点で収束すれば、それを境界に持つ円盤上に広義一様収束してくれることがわかります。広義一様収束性があれば、ワイエルシュトラスの定理が適用できることになり、すなわち次の定理が成り立ちます。

定理4 (べき級数の性質)


べき級数F(z)=A_0+A_1z+\cdots+A_nz^n+\cdotsがある原点中心の円盤D=D(0,r)で広義一様収束するものとする。このとき、以下が成り立つ。


(1)D上でF(z)は正則

(2)べき級数A_1+2A_2z+\cdots+nA_n^{n-1}D上で広義一様収束し、F'(z)と一致する。

この定理はべき級数の正則性からワイエルシュトラスの定理を用いることで言える性質で、\dfrac{1}{f(z)}の形をした関数の留数を求める公式の証明でも用いられます。

そうしたらテイラー展開をの主張を強めた次の定理を見ていきましょう。

定理5 (強・テイラー展開)


D\subset\mathbb{C}は正則関数とする。さらに\alpha\in DR>0C=C(\alpha,R)\subset Dを満たすとする。このとき、Cの内部の任意の点zにたいして次の等式が成り立つ。

f(z)=f(\alpha)+f'(\alpha)(z-\alpha)+\dfrac{f''(\alpha)}{2!}(z-\alpha)^2+\cdots

とくに、右辺のべき級数D上広義一様収束し、左辺の関数に一致する。

それでは証明していきます。

z_0Cの内部から任意にとり、r:=|z_0-\alpha|<Rとおく。

さらにz\in Cを一つ取り、固定する。この時、\left\vert\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}\right\vert=\dfrac{r}{R}<1であるから、

\displaystyle\dfrac{f(z)}{z-z_0}=\dfrac{f(z)}{(z-\alpha)-(z_0-\alpha)}=\dfrac{f(z)}{z-\alpha}\cdot\dfrac{1}{1-\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}}\\\displaystyle=\dfrac{f(z)}{z-\alpha}\cdot\sum\limits^\infty_{n=0}\left(\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}\right)^n

いま、f_n(z):=\dfrac{f(z)}{z-\alpha}\cdot\left(\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}\right)^n,g_n(z):=f_0(z)+\cdots+f_n(z),g(z):=\dfrac{f(z)}{z-z_0}とおくと、上の式変形からz\in Cを固定するごとに(数列の極限の意味で)\displaystyle g(z)=\lim\limits g_n(z)=\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z)である。これがC上の関数の意味で一様収束になっていることを 示そう。C上での|f(z)|の最大値をM=M(C)とし、z\in Cのとき\beta=\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}とおく。このとき、

|g_n(z)-g(z)|=|f_{n+1}(z)+f_{n+2}(z)+\cdots|=\left\lvert\dfrac{f(z)}{z-\alpha}\left(\beta^{n+1}+\beta^{n+2}+\cdots\right)\right\rvert\\\le\dfrac{M}{R}\cdot\left\lvert\dfrac{\beta^{n+1}}{1-\beta}\right\rvert\le\dfrac{M|\beta|^{n+1}}{R(1-|\beta|)}

|\beta|=r/R<1z\in Cの取り方に依存しないから、g_ngC上一様収束する。

よって積分公式より、

\displaystyle f(z_0)=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\dfrac{f(z)}{z-z_0}dz=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\sum\limits^\infty_{n=0}f_n(z)dz\\\displaystyle=\dfrac{1}{2\pi i}\sum\limits^\infty_{n=0}\int_C f_n(z)dz\\\displaystyle=\dfrac{1}{2\pi i}\sum\limits^\infty_{n=0}\int_C\dfrac{f(z)}{z-\alpha}\cdot\left(\dfrac{z_0-\alpha}{z-\alpha}^n\right)dz\\\displaystyle=\sum\limits^\infty_{n=0}\left(\dfrac{1}{2\pi i}\int_C \dfrac{f(z)}{(z-\alpha)^{n+1}}dz\right)(z_0-z)^n\\\displaystyle=\sum\limits^\infty_{n=0}\dfrac{f^{(n)}(\alpha)}{n!}(z_0-\alpha)^n

以上でCの内部での収束性が示された。

次に広義一様収束性を示そう。任意の0<r<Rについて、コンパクト集合E_r:=\{z\in\mathbb{C}\bigm\vert|z-\alpha|\le r\}上で一様収束することをしめせば十分である。

今、適当なr<r'<Rについて|z_0-\alpha|=r'を満たすz_0を取れば、上の議論により\displaystyle f(z_0)=\sum\limits^\infty_{n=0}A_n(z_0-\alpha)^n(ただしA_n=f^{(n)}(\alpha)/n!)は収束する。よって、補題3から、f(z)=\sum\limits^\infty_{n=0}A_n(z-\alpha)^nE(r)上一様収束する。

同様のアイデアで、ローラン展開もつぎのように広義一葉収束性込みで示されます。

定理6 (ローラン展開&広義一様収束性)

\alpha\in\mathbb{C}とし、円環領域D=\{z\in\mathbb{C}\bigm\vert R_1<|z-\alpha|<R_2\}上で関数f:D\to\mathbb{C}は正則であるとする。さらに、n\in\mathbb{Z}およびC=C(\alpha,R),(R_1<R<R_2)にたいし

\displaystyle A_n=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C \dfrac{f(z)}{(z-\alpha)^{n+1}}dz

と定める。この時、任意のz\in Dに対して、次の等式が成り立つ。

f(z)=\cdots+\dfrac{A_{-2}}{(z-\alpha)^2}+\dfrac{A_{-1}}{z-\alpha}+A_0+A_1(z-\alpha)+A_2(z-\alpha)^2+\cdots

特に下線部および二重下線部の級数D上で広義一様収束し、左辺と一致する。

この定理の証明としては省くのですが、広義一様収束性についてはローラン展開を下線部と二重下線部にわけて、それぞれが任意の|z|\le r_2<R_2|z|\ge r_1>R_1で一様収束することを示せばよいことになります。前者は補題3がそのまま適用できるので先ほどの定理と同様になります。そして、後者はF(z)=A_0+A_1/z+\cdots+A_n/z^n+\dots級数について補題3を修正してあげれば上手くいくと思います。具体的には、補題3と同じ議論で\left\lvert\dfrac{A_n}{z^n}\right\rvert=\left\lvert\dfrac{A_n}{z_0^n}\right\rvert\cdot\left\lvert\dfrac{z_0}{z}\right\rvert^n\le M\cdot\left(\dfrac{|z_0|}{r}\right)^nとなって、あとは補題3と同様に証明できます。

それでは、最後にローラン展開の一意性をみて終わりにしましょう。

定理6 (ローラン展開の一意性)

D\alphaを中心とする穴あき円盤とし、関数fは(少なくとも)D上で正則であるとする。もし数列[\{B_n\}_{n\in\mathbb{Z}}]で、D上の各点zにおいて、

\displaystyle f(z)=\sum\limits^\infty_{n=-\infty}B_n(z-\alpha)^n

が成り立つようなものが存在すれば、右辺の級数ローラン展開になっている。すなわち、すべての整数nに対して

B_n=A_n=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\dfrac{f(z)}{(z-\alpha)^{n+1}}dz

が成り立つ。

こんな感じでローラン展開の一意性が成り立ちます。そしてこれが成り立つとすれば線積分をせずとも初等的な式変形で求めることができます。それでは証明をしましょう。

定理6 (ローラン展開の一意性)の証明


D\alpha中心とする穴あき円盤とし、そこでのローラン展開

\displaystyle f(z)=\sum\limits^\infty_{n=-\infty}A_n(z-\alpha)^n

とする。さらに、D上の各点zにおいて

\displaystyle f(z)=\sum\limits^\infty_{n=-\infty}B_n(z-\alpha)^n

が成り立つと仮定する。この時、補題3あるいは定理5と同様の議論から、べき級数\displaystyle\sum\limits^\infty_{n=-\infty}B_n(z-\alpha)^nD上広義一様収束することがわかるとくに、円C=C(\alpha,r)R_1<r<R_2となるように選ぶとき、C上では一様収束する。よって任意の整数Nに対し、

\displaystyle A_n:=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\dfrac{f(z)}{(z-\alpha)^N+1}dz\\\displaystyle=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\dfrac{1}{(z-\alpha)^N+1}\cdot\sum\limits^\infty_{n=-\infty}B_n(z-\alpha)^ndz\\\displaystyle=\dfrac{1}{2\pi i}\int_C\sum\limits^\infty_{n=-\infty}B_n(z-\alpha)^{n-N-1}dz\\\displaystyle=\dfrac{1}{2\pi i}\sum\limits^\infty_{n=-\infty}\int_CB_n(z-\alpha)^{n-N-1}dz\\=B_N

証明ができたので最後にまとめましょう。

まとめ

今回は項別積分ローラン展開の一意性についてやりました。はじめてブログ書いてみたのですがどうでしたでしょうか。このような感じでゼミでやった内容を書いていくのでよかったらまたみてください。

参考文献

複素関数論の基礎のキソ-Hitotsubashi University」一橋大学経済研究所 p79~105 https://www1.econ.hit-u.ac.jp/kawahira/courses/kansuron.pdf